去年2016年の7月、カナダ連邦政府の最高裁判所は次のような法・ルールを設定しました:
「地裁・高裁レベルの案件は、容疑者の身柄拘束から18か月以内(約1年半)に裁判を開始・結審しなければいけない。最高裁の場合は30か月以内(約2年半)。」


これ、Jordan Decisionと呼ばれるもので、長い間身柄を拘留され(約50か月間)たにもかかわらず、一向に裁判が開かれる様子のない容疑者・Jordanさんの名前を取って作成されたルール。


この問題が今、ここケベック州やオンタリオ州など各州で大きくなっているんです。
例えばケベック州を例にとってみると、このルール制定により、身柄拘束から結審までの期間に制限が設けられました。
 
なので、円滑に裁判を進めるためにケベック州では新たに16名の判事、52名の検事、そして裁判を円滑に進めるため100名を超えるサポートスタッフを採用しております。
 
多分、これで比較的罪の軽い地裁・高裁レベルの案件は、どうにか時間制限に掛からず進んでいくことができているのかもしれません。


が問題は、「カナダ連邦政府の責任で任命する」最高裁判所判事。ケベック州では現在この最高裁判所判事の席14名分が空席なんです。ケベック州政府は早くこの空席を埋めるように再三カナダ連邦政府に要望していますが、現カナダ政府の法相・Jody Wilson-Raybouldさんは、言葉を濁しています。
結果どうなるかと言いますと、比較的重い罪(殺人など)を扱う最高裁での審議が始まらず、上記ルールの時間内に結審することができません。
 
するとどうなるか・・・・・・。なんと、容疑者は裁判をすることなく「不当に長い間拘束され、裁判も開かれなかった」として釈放されてしまうんです。
 
これは明らかに法制度の不備、及び連邦政府の段取りの悪さが原因なのに、「殺人等の重い罪を犯したと思われる」人物が、なんの裁判もされずに、社会復帰してしまうんです。

JORDANRULE APR152017 01
(カナダ連邦政府法相・Jody Wilson-Raybouldさん。CBC Newsサイトより。) 

これに対してはケベック州だけでなく、オンタリオ州もアルバータ州も、まずは最高裁判事を増やしてほしいとカナダ連邦政府に要望していますが、法相の答えは「裁判はまず州レベルで始まるので、上記ルールによる時間制限内に結審できないのは州政府の問題。それを連邦政府に責任を押し付けるのは間違い。」と述べています。
 
まあ、なんともすがすがしいくらいの「責任転嫁」ですね。彼女は今月(2017/04)末から各州を訪れてこの問題を話し合うそうですが、なんの解決もしないばかりか、混乱を招く、責任を押し付けるだけでしょうね。。

JORDANRULE APR152017 02 (Yasir Naqvi)
(オンタリオ州の司法長官・Yasir Naqviさん。CBC Newsサイトより。)

既にこの問題に関しては、各州政府は独自のやり方でこの「時間制限ルール」空の抜け道を探しております。また連邦議会においても、野党はこの問題をカナダ連邦政府が適切な対応を取っていないために招いているとして厳しく追及しております。


実際、アルバータ州では殺人の容疑で身柄を拘束されていた容疑者が、4年もの間拘束されていたにも関わらず裁判が始まらなかったとして訴訟の一時停止=釈放されております。

この殺人事件の被害者である男性のご両親は、この決定に深く傷つき落胆しておりますし、「この国には正義も法律もない。」とも述べております。当たり前ですよね、息子さんを殺したと思われる人が、何の罪も負わずに社会復帰しているんですから。
 
また、誰が息子さんを、何のために殺したのかと言う事実も明らかにされていませんし、ご両親の気持ちを考えると本当にカナダ連邦政府の対応には怒りしかこみ上げてきません。


同じような案件がケベック州でも先週あったんです。
2004年にスリランカから難民申請していた男性が、自身の妻を殺害した容疑で2012年に身柄を拘束。そして現在まで裁判が開かれず、ケベック州最高裁の決定(上記時間制限ルールにより)により、釈放されるところまで行ったんです。
 
ただこのケース、容疑者が難民だったということもあり、すぐに移民難民局が出動して、身柄を拘束。現在はそちらに身柄を移されているそうです。この移民難民局では彼の難民認定を取り消し、スリランカに強制送還する予定です。
 
が、結局彼が何のために妻を殺したのかなどの真相は明らかにならないんですよね、このルールにより。。

JORDANRULE APR152017 03 (Stéphanie Vallée)
(ケベック州の法相・Stéphanie Valléeさん。CBC Newsサイトより。)

このままこのルールが、何の修正も連邦政府の真摯な対応もないまま進んでいくと、カナダ中に「犯罪をしたであろう人たち」が無秩序に開放されることになります。


うーん、最近はカナダ政府・自由党政府の荒ばかりが目立ちますね。。。何とか「まともな」国づくりをしてほしいものです・・。



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